贈る言葉-1
贈る言葉-1
中3生の皆さんは、私立入試が終わり、3月の公立入試に向かって勉強している人、私立専願で4月からの高校生活に期待と不安を持っている人もいるでしょう。
当塾の中3生も無事全員私立入試に合格しました。ここまで来るには一人ひとりのストーリーがありました。
そのうちの一人の中3生のK君は小学校6年生から塾に通ってくれた生徒さんでした。
3人兄弟の真ん中でお母さんは、一斉授業の塾よりも少人数の塾の方がK君には合っているのではと思われました。K君は算数が苦手で計算は得意なのですが、文章題は初めから「わからない」と取り組もうとしません。時にはこちらから声をかけても返事がなく、まるでコンピューターがフリーズ状態になったように黙ってしまいます。
そんな状態が1時間続くときもあり、どう関わっていいのか頭を抱えてしまうことがしばしばでした。自分がわかる問題のときは調子よくできても、少し難しい問題になると拗ねてしまうK君の気持ちはジェットコースターのようでした。
そのK君も中学生になりました。以前に比べれば、ずっと拗ねることはなくなりましたが、今度は「こんな問題をさせる先生が悪い」とか自分の答えが間違っていても「僕は正しい」といい続け、自分が間違っていても決して「ごめんなさい」とは言わないのです。
あるときは厳しくしたり、あるときは拗ねるのがおさまるまで待ったりといろいろ関わり方を変えてみました。
「すぐにできないと腹が立つし、考えてもわからないから適当に答えを書いた」と言うK君。お母さんとの面談で兄弟関係において、下の弟さんが何でもすぐにできて、自分が頑張っても弟の方がいい点数をいつも取ってくることや、いざテストになると緊張してしまうことなどお母さんも悩んでおられる様子でした。
あるとき、いつものように不満をぶつけるK君に対して「でも君は本当はいい子だから」と何気なく言うとK君は「先生、僕のこと本当にそう思ってくれるの」と何度も確かめ、それから素直になったりしました。
「僕だって自分を変えたい」とつぶやくK君に「じゃあ。どうして拗ねるの?」とたずねると「だって何か言われると僕のことわかってくれないと思ってしまう」との答えが返ってきます。
さらに話を聞いてみると、小学生の時にお父さんから算数を教えてもらっていて、一度教えてもらったことをすぐにわからなかったら怒られたことや、塾に通っていたとき全部正解になるまで残されたことや学校の算数の時間でも同じようなことがあって休み時間もなくなったことなどいろいろ自分の思いを話してくれました。
一連の出来事は時間経過はあっても一つにつながっていて、K君はできない自分を受けとめることができないのではと思いました。K君がこのテーマを越えるには時間がかかるでしょう。でも、人に話すことで気持ちが楽になることもあります。何よりもK君の心の一端がわかりより彼のことを理解しようと感じるようになりました。
その後、K君は気持ちがすっきりしたのか「合格が決まったら一番に先生に報告するから」と言ってくれました。その約束通り、合格通知が届いた日、K君から元気な声で「先生、合格しました」と電話がありました。
K君、高校生になってもいろいろな出来事と出会うと思いますが頑張ってくださいね。
「いつでも何か相談したいことがあったら塾に来たらいいから」という私の言葉に「ありがとうございました」と元気に答える彼の姿は少し大人びて見えました。